本当に読めました?「あそぶのぽけっとじてん」
を抜き取っていたのに?
もし、昔話「いなばのしろうさぎ」と
気づいたなら、それは勘がいい。
わからなかった皆さん、解説はこの先で▼
いなばのしろうさぎとは
稲羽(いなば)のヤガミヒメを妻にしようとする兄たちのお伴をした少年オホナムヂは、途中で皮を剥がれたうさぎを見て、理由をたずねた。うさぎは、「淤岐(おき)の島に住んでいたけど、島に渡りたくてワニ(和迩)をだまして、数比べをすると言って並ばせたんだ。その背中を飛んで数えてきたけど、最後のところで『やーい、だまされたな』と言うと、ワニが怒って皮を剥いできたんだ。痛くて泣いたところに、兄たちが来て、『塩水を浴びて風に吹かれるとよくなる』と言われてその通りにすると、こうなったんだ」と答えた。
そこでオホナムヂが、真水で体を洗いガマの花にくるまれば治ると教えてあげた。その通りにするとケガは治り、うさぎは喜んだ。実は、このうさぎは神であった。
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いなばのしろうさぎ
と古事記
実は、現存最古の歴史書『古事記』に載せられている神話の一部のお話、いなばのしろうさぎ。古事記研究家三浦佑之氏による解説で、いなばのしろうさぎと古事記にまつわる逸話をちょっとだけ紹介します。
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王へのストーリーと
イナバの国 -
本当にしろうさぎ?
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ワニの正体って…
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メディカルシャーマン、
オホナムヂ
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王へのストーリーと
イナバの国
オホナムヂ(大穴牟遅神)というのは、出雲大社に祀られているオホクニヌシ(大国主神)の少年時代の名です。オホナムヂが苦難を乗りこえて、王になるという成長物語の最初に語られているエピソードが、稲羽のしろうさぎの話です。イナバという地名は「因幡」と書くのが一般的ですが、『古事記』では「稲羽」と表記されており、「淤岐の島」というのも『古事記』の表記で、隠岐島のこととみるのが一般的です。
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本当にしろうさぎ?
『古事記』では、うさぎは「素兎」であって、「白兎」ではありません。この素兎を「しろうさぎ」と読んでいいかどうかは議論があるんです。ただ、漢字「素」には白いという意味もあり、また、「しろうさぎ」以外に読みようがないこともあって(意味をとって読めば「ハダカうさぎ」なども可能ですが)、とりあえず「しろうさぎ」と読んでいいのではないかというのが一般的ですね。
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ワニの正体って…
ワニ(和迩)は、海の生き物のサメのことなんです。この神話だけではなく、古代の文献にワニはたびたび登場し、「海の神」が人の前に姿をみせる時には、ワニとして現れることが多いですね。クロコダイルやアリゲーターなどの淡水の生物もワニ(鰐)と呼ぶため、このワニも淡水の鰐、あるいは架空の動物とみる考え方もありますが、神話に登場する海の神の化身のワニとは、サメのことなんですよ。
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メディカルシャーマン、
オホナムヂ
オホナムヂはガマの花を用いてうさぎのケガを治しました。これはオホナムヂが、メディカル・シャーマン(巫医(ふい))としての能力を持っていたことを意味しているんですね。巫医とは、呪術的な力によって病気などを治すことのできるシャーマンであり、それは当時の「王」としての資格でもあったんです。この神話によって、オホナムヂが王となるべき能力を身に着けていることが証明されました。
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監修者プロフィール
三浦佑之(みうら・すけゆき)
1946年、三重県生まれ。古代文学・伝承文学を研究。千葉大学名誉教授。1998年に『村落伝承論』で第5回上代文学会賞、2003年に『口語訳古事記』で第1回角川財団学芸賞、2012年に『古事記を読みなおす』で第1回古代歴史文化みやざき賞を受賞。通説にとらわれない古事記論を展開する。2019年11月には『古事記神話入門』(文春文庫)とライフワーク『出雲神話論』(講談社)を刊行。
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