本記事は2021年9月10日にvolkswagen.comに掲載された記事の日本語版です。
フォルクスワーゲンとギリシャ政府は、エーゲ海のアスティパレア島をサステナブルなEVアイランドに変えています。このトピックでは、アスティパレア島の警察が、新たにパトカーに採用された新型「ID.4」を、最初の数日間でどのように利用したのかご紹介します。
南エーゲ海の時間はゆっくりと流れています。「エーゲ海の蝶」として知られるアスティパレア島でも同じです。小石のビーチから続く丘陵地帯。腰の高さほどの植物は、春には緑色、夏には乾燥して黄金色に変化します。アスティパレア島は、他の島々と比較してもギリシャ本土から離れた場所にあります。アスティパレア島に行くには、首都アテネ近辺にある港ピレウスからフェリーで約10時間かかります。 この島で、フォルクスワーゲンとギリシャ政府が、パイロットプロジェクトを開始しました。それは、この島をスマートでサステナブルなEVアイランドにするというものです。島の交通を脱炭素化することを目的として、「ID.3（アイディ.3）」や「ID.4」といった電気自動車、「Seat Mó（セアト モ）」ブランドの電動スクーター、電動自転車を導入し、ゼロエミッションの地域輸送システムを作ります。
このビジョンは、2021年初夏からこの島で具体化されました。当時のフォルクスワーゲン元CEOのヘルベルト ディースは、2021年6月2日に、特別な装備が施された3台の「ID.4」を、地元の警察、沿岸警備隊、民間航空サービスに引き渡し、その後さらに多くの車両を引き渡しました。これらの車両は、1回の充電（バッテリー容量52kWh）で、島の南西に位置するパラリア ヴァツェス ビーチから北東の古代遺跡までのルート（約30km）を11回以上走行することができます。
アスティパレア島では、フォルクスワーゲン元CEOのヘルベルト ディースとギリシャ首相のキリアコス ミツォタキスが、ギリシャ初となる電気自動車のパトカーを導入しました。
2021年の夏、アスティパレア島の警察は、新型「ID.4」をパトカーとして導入。
また、109kW（148PS）の同期モーターを搭載した「ID.4」は、島の山岳地帯を軽快に走行することができます。アスティパレア島の住民は、同じ仕様の「ID.4」をギリシャ政府の補助金プログラムを利用して購入することが可能となります。ギリシャ政府は、電気自動車の購入に魅力的な補助金を設定して、アスティパレア島の住民を支援しています。
アスティパレア島がこのパイロットプロジェクトに最適な場所として選ばれたのは、人口がそれほど多くないことに加え、交通網がシンプルで輸送システムが完結しているからです。外部から島にクルマが来ることはほとんどありません。そして、よく整備された道路は一本しかなく、それが島の各地を繋いでいます。例えば、島の最も大きな村は、貯水湖の下の緑の谷にある小さな村、リヴァディとこの道路で結ばれています。幹線道路が木陰のビーチ沿いに建設されている一方で、丘の上にある緑豊かな庭園にアクセスするための脇道も整備されています。
北東に向かうこの道路は、無数のカーブを伴って、島全体へと広がっています。キャンプ場を過ぎると、そのすぐ先の行き止まりには新しいフェリーターミナルがあります。このターミナルは、島で一番大きな村の反対側にあります。古い港では、強風で船が発着できないことが多いためです。そこから数キロ先、蝶々の形を成している島の羽と羽との間辺りには、空港が設置されています。ここは、コーラから約12kmの場所です。そして、この道路は人口が非常に少ない北東部へと続きます。
Kastellanos展望台：島の南東にある高さ366mの山からの眺め。
ギリシャにおけるフォルクスワーゲンの主要インポーターである「Kosmocar」が、事前にこの島で試乗し、詳細な調査を実施することで次のようなことも確認できました。アスティパレア島における「ID.4 Pure（アイディ.4 ピュア）」の一般的な一充電走行可能距離は約484kmにもなりますが、WLTP基準による345kmの航続距離との違いには、2つの理由があります。ひとつは、数多くの上り坂と下り坂が交互に続き、下り坂で電気自動車の回生機能によって電力を回収することができるからです。もうひとつは、平均速度が低いからです。幹線道路でも、車両は最高速度55～60km/hで走行しています。
「Kosmocar」の担当者は、警察および沿岸警備隊のパトカーは、週に1回程度の充電で、航空当局は、さらに少ない頻度で「ID.4」を充電すれば十分になるだろうと説明しています。島の面積は96km²で、緊急車両が一度に移動する最長距離はわずか約35kmです。これは、島で一番大きな村のコーラから、フェリーターミナルと空港を経由して、島の反対側にある小さな村のヴァティスまでの距離です。
舗装された道路はヴァティスの少し手前で終わっています。その先には、曲がりくねった未舗装の道が続き、かつて農場があった場所と入り江を通り、アスティパレア島でもっとも人里離れた村に向かいます。この未舗装の道は、ゆっくりと運転しても土埃が舞い上がり、道路脇には巨大な岩が立ち並び、足元には小石が敷き詰められています。
アスティパレア島の幹線道路の外れには、このような小道がたくさんあります。そして、これらの道路のいくつかは、ビーチに向かって急な下り坂になることがよくあります。観光客にとっては運転が難しい道ですが、電気自動車の「ID.4 」は、このような道の走行を得意としています。この電動クロスオーバー モデルは、地上高が高いことに加えて、堅牢なアンダーボディ プロテクションも備えています。このMEBファミリーのバッテリーは、サンドイッチ構造により十分に保護されています。
フォルクスワーゲンがアスティパレア島の自治体に引き渡した「ID.4」は、ギリシャ初となる電気自動車のパトカーです。この車両は、自治体の要件に合わせてアテネ北部のスペシャリスト、「Systemtec」によって改装されました。同社はギリシャの行政当局から、この種の専門的な改装作業を請け負っています。
改装作業には、関係当局が指定するカラーリングに変更するためのフィルムの貼り付け、専用の無線装置、政府のデータシステムへの接続装置の取り付けなどが含まれています。それ以外は、標準仕様と同じです。改装費用は、1台あたり約5,000ユーロです。
電気自動車「ID.4」をベースにしたパトカーは、現在、アスティパレア島の日常風景の一部となっています。
電気自動車の運転はアスティパレア島の警察官のほとんどにとって初めての体験です。そのため、彼らは広範囲なトレーニングを受け、電気自動車の技術と取り扱いに関するすべての内容を学びました。
その非常に充実したトレーニング内容に「素晴しい運転体験だった」と驚く警官もいました。
アスティパレア島の警察官：「ID.4」の先進的な装備、高品質な造り、そして頑丈な構造を評価。
「“ID.4”は力強く加速し、運転しやすく、扱いやすいクルマで、日常業務で必要な機器を積載できる十分なスペースを備えています。 また、日常走行でメリットがあるだけでなく、電気自動車はコスト削減にもつながります」と管理スタッフのメンバーは語っています。ガソリンや軽油はフェリーで島に輸送する必要があるため、アスティパレア島では燃料が高価になります。平均してギリシャ本土よりもガソリン価格が25％高くなるため、電気代の方がはるかに安価です。
以前のパトカーよりも大きい「ID.4」のボディサイズにドライバーは慣れる必要があり、特に狭い通りでの運転や駐車では注意が必要と思われましたが、大きな問題ではありませんでした。あるドライバーは「ID.4は先進的な装備に加えて、すべてが高品質で、頑丈に作られていると感じた」という評価でした。
「ID.4」に加えて、この島の自治体は現在、さらに3台の電気自動車を所有しています。セアト社のサブブランドである「Seat MÓ」電動スクーターを利用すると、狭い路地でも簡単にゼロエミッションで移動することができます。その後、地元の保健センターへの患者輸送用に「e-Crafter（e-クラフター）」が納入され、アスティパレア島の自治体の電動化が本格化しています。
フォルクスワーゲングループは、ギリシャ政府と協力して、アスティパレア島で野心的なプロジェクトを開始しました。エーゲ海に浮かぶこの島の交通手段が、できる限り多くe-モビリティに置き換えられます。これには、公共交通機関、自治体や企業が所有する車、住民が所有する自家用車が含まれます。同時に、島全体にわたって、民間および公共充電ステーションが拡充されています。そのハイライトは、島の公共交通機関を近代化する新しいカーシェアリングとライドシェアリング サービスです。家庭、企業、交通に必要な電力の大部分は、ギリシャ政府が島に建設した風力および太陽光システムから供給されます。そのため、島の電気自動車は、完全にグリーンエネルギーで充電されます。
